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#004 世界に誇れるニッポン男児の警守・西野努さん

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世界に誇れるニッポン男児の警守・西野努さん

基本技術は教えても、考え方までは教えない。
サッカーを通じ、日本の教育を考える。

―― 西野さんは、神戸大学をご卒業後、Jリーグが開幕した1993年に浦和レッズに加入。9シーズン、DFとしてご活躍された後、2003年に渡英し、リヴァプール大学でMBAを取得されるなど、サッカー選手としては異色の経歴をお持ちですよね。

西野 Jリーグが始まった年に新人で入ってるんで、入団交渉していた91年とか92年なんて「プロサッカーリーグができるらしい」「何それ?お金もらえんの?」みたいな話しでしたからね(笑)
帰国してからは、サッカースクール関連や、大学の講師など、サッカーを通じた教育が、仕事のテーマになっています。

教育に関して…ですか?うーん。

これは、サッカーの指導だけでなく、日本の教育全般に対しても言えることなのかも知れないけど、指導者も情報も多くなって、良い面もありつつ、弊害も出ているように感じます。
例えば、「この場面ではこう動く」と言うことまで、細かく子どもに伝えてしまう指導者もいるんですが…。サッカーは特に、自分で考えて判断し、プレーにつなげることの繰り返しで、“判断のスピード”ってよく言うんですけど。それは、高いレベルに行けば行くほど求められることでもあるので、技術は教えても、自分で考える力を奪わないよう、気をつけていますね。

―― なるほど。子どもに対して考え方まで教えないと言うのは、意識しないと、案外難しいことかも知れないですね。

西野 実は、高校、大学とサッカーの指導者がいなかったんですよ。

―― (思わず)えっ?!Jリーガーだったんですよね?!

西野 ええ(笑)
進学校だったせいか、どちらにも顧問しかいなかったので、練習法から、戦術、トレーニングまで、全て自分たちで考えてやっていました。それでも、高校は県で準優勝。大学でも、関西の大学の一部リーグで2年間プレーしてましたからね。監督、いないのに…(笑)。その経験は、力と自信になったと思うので、その影響はあるでしょうね。
ただし、指導者不在の唯一のデメリットが、基本技術の甘さでした。だから、子ども達には、技術はしっかり教えますよ。毎週、繰り返し。でも、いったん試合が始まったら、何も言いません。失敗しても…。

今は、検索すると何でも出てくるし、すぐ答えを求める風潮があるけど、結果的には、無駄な努力や失敗から、気づくこともあるじゃないですか。最初から答えを求めても、それは人の答えで自分の答えじゃない。それほどつまらないこともないですよね。
だから、失敗もどんどんさせて、やるからには楽しくやってほしいんです。「言われた通りにやったらうまくいったね」って言う、上っ面の楽しさじゃなく、工夫して自分でつかみ取る“喜び”ですよね。

とは言え、挨拶をしないなど、人としてありえないことをした時は、もうめちゃくちゃ怒鳴りますけどね!(笑)

―― なんだか、古き良きニッポンのお父さんと言う感じですよね。普段は寡黙に見守っているけど、人としてのあり方や礼節には厳しいと言う…。

西野 たぶん、日本人であることを強く意識したのは、イギリスに行ってからです。日本のことをいろいろ質問されるんだけど、詳しく答えられなかったんですよ。それから、箸の持ち方や作法にはじまり、日本の伝統文化や歴史を、改めて勉強しましたね。教育に関しても、明治維新前後の書籍を読んだり。

そうやって外国から日本を眺めると、日本には、もっと大切に引き継ぐべきものが、たくさんあると感じるようになったんですね。歴史や文化だけでなく、調和と言うか…。弱肉強食じゃない、儲けたモン勝ちじゃない…。こんな風に、みんな一緒に、幸せに生きようと考える民族って、なかなかいないと思うんですよ。

そういう価値観も、大人がもっと認識して子どもに伝え、できれば、海外に発信していかなくてはいけないと思ってはじめたのが、「キッズ・ワン・ワールド」の活動なんです。日本にいる子どもにも、外国の子どもと一緒に、サッカーや食事をする機会を与え、文化やマナーの違いから、日本とは、日本人とは何なのかを感じ取ってほしいと。去年ははじめて、中国からチームを招待したんですよ。
だけど、1回参加しただけではきっと伝わらない。子ども達が自然に気づき、自分達の文化に誇りを持ってくれるまで、続けるしかないと思っています。

―― 最後に。
THE FORUMで、西野さんがやってみたいイベントはありますか?

西野 歴史の背景を考えれば、仕方ないと思うんだけど…。日本の価値を、見直しても良い時期なのではないかと思うんですよね。その上で、僕は3人の子供の父親でもあるんですが、それを子供たちに伝えるのが、“父親”という立場でもアリなんじゃないかと。
そう言うのを話し合い、いい形で世の中に発信できるようなことをしたいです。男同士、子どもの教育について語り合おう!みたいなね(笑)

(株)オプト・スポーツ・インターナショナル http://www.opt-sports-international.com/
西野努オフィシャルブログ「魁!西野塾」 http://ameblo.jp/tsutomu-nishino/
NPO法人キッズ・ワン・ワールド http://www.kidsoneworld.jp/

※ 西野努さんの著書『なぜ、浦和レッズだけが世界に認められるのか』(東邦出版)は、THE FORUMラウンジにて実際にご覧いただけます。

2013.02.05 Tue by 弦巻 響子 from interview

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