THE FORUM 世田谷

大切なものは目に見えない 【連載最終回】

~ じつはカビなんです…「麹」と「塩麹」のお話し ~

 

さて、前回も触れたが最近の爆発的「発酵」ブーム。一体何が火付け役となったのだろうか。

実は、蒼井優を主役に迎えテレビ化もされた日本料理マンガ『おせん(きくち正太 著/講談社 モーニング)』にて「塩麹(しおこうじ)」が大きく紹介されたことが発端なのではないかと言われている。

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そして、『おせん』を読んだ料理家やメディア関係者の中で“塩麹”が話題となり、カンタンに家庭でも醸すことができる万能調味料としてテレビや雑誌にひんぱんに“塩麹”が取り上げられた結果、「発酵」を身近に感じる方が増え、一躍「発酵」がブームを巻き起こすことになったようだ。

塩麹の流行により、私が主宰している醗酵♥茶会の「手前味噌講座」で使用する麹の仕入れもしばらく困難なほどの大流行。あまりの入手困難っぷりに、いつもお世話になっている麹屋さんに直接電話するも「朝から晩までやすみなく稼働しても間に合わないくらいてんてこ舞いです」という悲鳴が聞こえてくるくらいだった。

長年発酵に関わってきているが、ここまで「麹」という地味な食材がクローズアップされたことは一度もない。

「麹」は縁の下の力持ちゆえ、今まで表舞台にはあがりにくい食材だったからだ。

 

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「醗酵♥茶会(http://www.hakko-chakai.com/)」で味噌作りに使われる生麹

突然クローズアップされた「麹」とは、いったい何者なのだろう?

実は、「麹」はカビです。

専門的に言うと、Aspergillus(アスペルギルス)属に分類されるコウジカビと呼ばれるもの。

カビというと悪いイメージを持つ人が多いが、麹カビは日本の食生活には欠かすことの出来ない菌で、お味噌や醤油、日本酒を醸すのに使われてきた。紀元前数千年を遡る時代から私達人間は麹を活用してきたのだ。

麹の作り方をザックリ説明すると、蒸した米や麦等に麹カビの胞子をパラパラとまぶし、湿度の高い暖かい場所に放置する。麹カビが菌糸を伸ばしやがて米麹や麦麹になっていく。食べるとほんのり甘くて、栗のような香りがする。

私も農大在学中は、酒蔵実習で会津若松の「宮泉銘醸」という酒蔵で寒仕込みに入り杜氏さんや蔵人さんとともにお酒を醸すための麹づくり(製麹)をしたり、研究室で実験用の製麹を行ったりしたが、できあがったばかりのほんのり温かい麹のパリッとした感触、その芳香と味が大好きで、何度もつまみ食いをしたり香りを味わったものだ。

この麹に塩と水を加えるだけで10日間も常温で放置し発酵させると“塩麹”が完成。お肉を漬け込むと、麹の酵素でお肉は柔らかくなり旨味も増す。

全16巻の『おせん』のなかでも3〜4巻を中心に食材の味を引き出す“塩麹”の使い方が紹介されているが、この『おせん』というマンガは塩麹をはじめ、奥深い日本食と日本の伝統文化を知るのにも非常におすすめのマンガだ。

普段はマンガを一切読まない私も、老舗料亭「一升庵(いつせうあん)」を舞台に繰り広げられる全16巻を一気に読んでしまった。日本食、日本文化の造詣を読んでいるだけで深めることができる『おせん』。味わい深い作品だ。

 

~ 内海裕子さんによるブックセレクション『大切なものは目に見えない』は、今回が最終回です。内海さん、どうもありがとうございました! ~

※『おせん : 其之1』(きくち正太著/モーニング KC)は、THE FORUMのラウンジに購入予定です。

2013.06.20 Thu by 内海 裕子 from Books

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