THE FORUM 世田谷

フンとホン 【連載第1回】

131a315b76c88a5f42474cbffa889c5a

世の中には、トイレで本を読まない人と、トイレに本を持ち込む人がいるらしい。

読まない派の人間たち曰く、「行為に集中したい」、「活字を読むと出が悪くなる」、「日常で唯一、一人でほっとできる時間なのに、本など読みたくない」、「手はフリーにしておきたい」、「それどころではない」、などなど。最後の人などには同情してしまうが、持ち込む派としては、こうした意見に対して一言申し上げたい。

重要なのは、本に対する姿勢だ。本というものには、なんだかえらそうなイメージがまだある。ちょっと本格的な小説を読んでいたり、難しそうな本を読んでいたりすると、なんか偉い感じ、少しあの人は違う感じ、が漂う。いけてる匂いがぷんぷんする。
でも、本なんてそんな偉いもんでもないぜ、というのが持ち込む派の考えなのである。

なにせ、トイレで本を読むとなると、当然下半身は丸出しである。そして当然、本来の目的である液体や固体を身体から分離する作業を行いながら、読書をする。活字を読みつつ出すもん出してる時間、というのがトイレ読書の時間なのだ。ここまで無防備に自分をさらけ出し、素の状態で本と向き合う時間は他にはないだろうよ、というのが持ち込む派として、肥ではなくて声を大にして言いたいことなのだ。こうなると、どんな本でもこわくない。どこかの誰かが一生懸命書いた文章と、一対一で向き合う丸出しの私。かっこいいだけのテキストや思わせぶりな文章などは、すぐにわかる。「アイドルじゃあるまいし。詰まらん」といった具合である。

さて、そんな持ち込む派はどんな本をトイレで読んでいるのか、これから何冊か紹介してみることにしよう。まず一冊目は『くう・ねる・のぐそ』。副題に「自然に「愛」のお返しを」とあるこの本は、生きものとしての基本は、食べることと寝ること、そしてもう1つあるだろう、ということを強烈に、でも非常に真っ当に記している。

自然から頂いたものを食べる、それをまた自然にお返しする、という行為を、人間以外の生きものは当然のこととして行なっている。人間も、水洗トイレが普及する以前は当然、そうやってお返しをしてきた。でも今は、あまりそれを見ないようにして、じゃじゃっと水に流すだけで済ませようとしている。エコだなんだと言う奴は多いが、人間と自然の関係の基本のキ、本丸はここじゃないのか、と著者は問いかける。

内容は非常に実践的である。する場所はどこがいいのか。拭くために紙ではなく葉っぱを使おう。ではその葉っぱはどんな植物がいいのか。季節によって一番心地よい葉っぱは違ってくる。トイレの中でこの本を読んでいると、果たしてわたしはこんなところでこんなことをしていていいのだろうか、という気になってくる。著者の伊沢さんのメッセージは、強い。ワレワレの生活に力強い疑問符と否を突きつける。もっと踏ん張らねばならん、という気持ちになる。トイレの中で、自らの行為を振り返ることができる貴重な一冊である。

 

~ 早川アユムさんによるブックセレクション『フンとホン』。次回は4月11日(木)の掲載を予定しています。お楽しみに! ~

※『くう・ねる・のぐそ―自然に「愛」のお返しを』(山と溪谷社)は、THE FORUMのトイレにて実際にご覧いただけます。

2013.04.04 Thu by 早川 アユム from Books

TAG :

Page Top

Copyright © THE FORUM All rights reserved.