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ふるえゆらゆらとふるえ 【ときのうてな 連“本”最終回 高月美樹さん】

水口のお供えの花は素朴でささやかなものですが、水が引かれた田んぼにポツンと灯る宝石のような姿に、なんともいえない美しさを感じます。なぜ美しいと感じるのか、考えてみると単に風景としてではなく、山野の精を宿した花や草木が、水という媒体を通して大地を浄化し、清めているようにみえる、ということにあるようにおもいました。清らかな花の波動が、田んぼ全体にゆっくりと広がっていくようにみえるのです。

その静謐な広がりに、これから始まる稲の順当な生育と豊作を願う人々の、敬虔な祈り(意、乗り)が重なってみえてきます。水口の花は、山からとってきた花を高竿の先に立てる卯月八日の天道花の行事と同じく、山の神を降ろす依代とされていますが、たとえこうした意味や背景を知らなくとも、捧げられた花と水の間に流れるもの、自然と人の間にあるひそやかな交感は、ただそこにあって、誰でも感じることができるものだとおもいます。

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水といえば、映画『アレクセイと泉』が忘れられません。3 .11以降、リバイバル上映されてご覧になった方もおられることとおもいます。チェルノブイリ原発事故で、チェルノブイリと同じくらい強い放射能で汚染され、強制退去によって地図上から消されたベラルーシ共和国の小さな村があります。ほとんどの村民は移住しましたが、とどまることを選択した55名の高齢者と、アレクセイというたったひとりの若者が残り、昔ながらの自給自足の暮らしを続けています。

美しい森、畑、空気からも驚くほど高い放射能が検出されますが、なぜか村の中心の広場にある泉からはまったく検出されません。村人は汚染された土壌でじゃがいもを育て、決して食べてはいけないと警告されている森のきのこを採取し、この水で洗って食べています。家畜もこの水を飲んでいます。人々や動物が無事に生きながらえているのは、この奇跡のような水のお陰のようです。

この奇跡の泉が汚染されていないのは、百年前の水だからだと、村人はいいます。今回の滝澤恭平さんのおはなしでも、地層に水がしみこむのは年にわずか数センチで、世田谷の地下には長年かけてしみこんだ宙水があるということでした。アスファルトに覆われた都会では地下水を溜めることができなくなっているのです。

広場の中心にあるこの泉は事故の前から大切にされていました。季節ごとの祭もこの泉で行われ、人々のこころを育み、絆を結ぶ場所にもなっています。特に印象的だったのは冬の十字架祭です。それぞれの家で木を削って作ってきた十字架を交換し、水に浮かべて持ち帰り、その聖水を部屋のあちこちに撒いて清めるシーンがあります。

そこで思い出したのが、日本の若水の風習です。「あらたまの年の初めに杓とりてよろずの宝汲むぞうれしき」など、地方によってさまざまな唱え歌で水に言の葉をかけ、有り難い有り難いと手を合わせ、意、乗ることによって、若水は聖水に変わります。水桶にはしめ飾りをつけたり、聖なる植物とされる榊や橘の実を浮かべたりします。水口もまた、このような転写ではないかとおもえるのです。

すべての物質は原子レベルでみると、固有の振動数を持っています。イギリスの細菌学者エドワード・バッチ博士は、それぞれの花の持つ振動を水に転写し、その水を人体と共鳴させて、身体症状の奥にひそむ苦しみや感情を癒す方法を編み出しました。科学的な根拠はないとされてきたホメオパシーですが、近年は最先端の科学者や物理学者たちが、水は従来の化学的組成では説明できない構造を持ち、情報を運び、伝達する力があることを指摘し始めています。古い言い伝えと思われてきた若水や水口の風習も、近い将来、科学的に証明される日がくるのかもしれません。

 

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水口にお供えした花たち。やまぼうし、みやこわすれ、ルピナス。

お薦め本は、水を飲み比べる趣味が嵩じて、水問題の専門家になった橋本淳司氏の新刊『日本の地下水が危ない』(幻冬舎新書)と、水文学(すいもんがく)の第一人者、沖大幹著『水危機 ほんとうの話』(新潮選書)です。

 

~ 塚田有一さん、滝澤恭平さん、高月美樹さんによるイベント『ときのうてな』連動企画、連“本”は、今回が最終回です。塚田さん、滝沢さん、高月さん、どうもありがとうございました!『ときのうてな』次回開催は、8月を予定しています。お楽しみに。 ~

 ※『日本の地下水が危ない』(橋本淳司著/幻冬舎新書)、『水危機 ほんとうの話』(沖大幹著/新潮選書)は、THE FORUMのラウンジに購入予定です。

2013.05.17 Fri by THE FORUM official from article

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