大切なものは目に見えない 【連載第1回】
~ 人生を変えた“壮大なミクロ”のお話し ~
今「発酵」がブームなのだそう。
確かに、書店の料理書コーナーを覗くと、発酵関連のレシピ本がずらーっと並び、料理番組でも、健康番組でも「発酵」をテーマにした番組を数多く目にするようになった。
しかし、「発酵」という言葉がこんなにメジャーになるず〜っと前。私自身が強く「発酵を学びたい」と思うようになったのは高校に進学したばかり、春光に包まれながら未来への希望に溢れていた頃だった。
きっかけは今回ご紹介する『発酵 〜ミクロの巨人達の神秘〜(中公新書)』という一冊。
高校生だった私から見ると、オジサンが読んでいそうな堅苦しい雰囲気のこの本が、まさに“人生を変える一冊”となった。
著者は小泉 武夫先生。
発酵仮面、鉄の胃袋を持つ男、味覚人飛行物体…なんて多くの異名を持つ発酵界のヒーローで、日経新聞でも長く連載を持たれているので先生の書かれた記事を目にしたことがある方も多いのではないだろうか。
私はこの『発酵 〜ミクロの巨人達の神秘〜(中公新書)』を読んだことをきっかけにして、先生が教鞭を振るう東京農業大学 醸造学科の門をくぐり、学生時代はまさに「発酵」一色の世界にどっぷりつかることになった。
先生の著作には“世界中のゲテモノ”を喰いつくす姿を思う存分披露する、ユーモラスなものが多い中、この本はいたって大真面目。
創世記の地球。まだ酸素も栄養物となる有機物も十分になかった無機質主体の地球に増殖しはじめた微生物の話しからはじまる。
そこからだんだんと人間と微生物の歴史をたどり、日本文化と微生物、環境と微生物、現代社会と微生物にまで近づき、先生お得意の世界&日本各地のちょっとおもしろい発酵食解説で締めくくられる。
ともすれば難しくなりがちなミクロの世界の話を、ロマン溢れる文体で、わかりやすく道案内してくれているお陰で、読み終わる頃にはすっかり発酵ファン(?)、発酵微生物のトリコ(?)な女子高生の私がいた。
そして、あの頃から数十年たった今も変わらずこの本は私のバイブルで、読み返す度に胸に熱いものがこみ上げる。
最近、発酵ブームのお陰で「発酵」や「発酵微生物」を身近に感じてくれる人が急増してくれて嬉しい。
私が主宰する「醗酵♥茶会(http://www.hakko-chakai.com/)」でも、「発酵のことをもっと知りたい!」と足を運んでくださる方が多い。中には、驚くほど熱心に独学で発酵微生物について勉強されている方の受講も増えている。
※「醗酵♥茶会」…発酵茶(後発酵茶)を飲みながら発酵食をつくり伝え語る発酵専門の教室。
これまで、地味〜で、理解されにくい世界だった「発酵」や「発酵微生物」の世界が、突然脚光を浴びているが、このままブームで終わらずにたくさんの人が菌と共生する暮らしに目覚めてくれれば嬉しい。
「菌はみ〜んなやっつけてしまえーーー!!!」という“アンチ・バイオティクス”な時代がしばらく続いてきた気がする。
「除菌、抗菌、殺菌」という言葉をつければ売れるのだとか。
でも、「除菌、抗菌、殺菌」なんてやりようがなく、逆に不要なまでにやりすぎてしまったがためか副作用や耐性菌が出現するなんていう問題も出てきている。
現在の「発酵」ブームをきっかけに、菌達と仲良く暮らす“プロ・バイオティクス”な暮らしを見なおしてもらえたらいいなと思う。
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何と言っても、実は私たちのカラダにいる菌は約100兆個。約60兆個と言われている私たちの体の細胞の数よりず~っと多いのだ。
いい菌達がカラダの中で共生してくれているからこそ、私達も健康体で暮らしていくことができる。微生物がいなければ、この地球はこのように暮らしやすい星に形作られることはなかったのだし、美味しい「お酒」も「お味噌」も「醤油」も「漬物」も、微生物なしではこの世には存在しないことになってしまう。
もし、「発酵」や「微生物」の奥深さにもっと近づきたいと感じていただけたなら、私はこの本をおすすめしたい。
きっと、もっとミクロの世界を身近に感じてもらえると思う。
もしかしたら、あなたの人生も変わってしまうかもしれない。
私の人生が変わったように。
~ 内海裕子さんによるブックセレクション『大切なものは目に見えない』。次回は6月13日(木)の掲載を予定しています。お楽しみに! ~
※『発酵―ミクロの巨人たちの神秘』(小泉武夫著/中公新書)は、THE FORUMのラウンジに購入予定です。
2013.06.06 Thu by 内海 裕子 from Books