THE FORUM 世田谷

#003 男のはじめて料理演出家・福本陽子さん

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男のはじめて料理演出家・福本陽子さん

男性の料理には、大切な人の思い出と
新しい人生の扉がひそんでいる。

―― 数年前にお会いした時は、マーケティングのお仕事をされていましたよね。「男子料理教室」を始められたのは、どういった経緯だったのでしょうか?

福本 そうでしたね。
以前は、マーケティングの会社で、住宅に関する女性のニーズを調査し、住まいの提案をしていました。その時、多くの主婦たちが、ご家族、特にご主人とのコミュニケーションが、うまく取れない寂しさを抱えていることを知り、どんな設計なら家族の会話が増えるのか、ずっと考えていました。

しかし、いくら立派な建物を作っても、幸せは、その中に暮らす人の意識次第だと感じていたので、独立してからは、暮らし方と言うか、男性が、家族と一緒にキッチンに立つ、新しいライフスタイルを提案したいと思ったんです。そうすれば、奥さまやお子さまとの会話も増えるのではないかと。
そのためにまず、男性に料理の楽しさを知ってほしいと始めたのが、「メンズ・キッチン」なんです。

―― なるほど。
しかし、普段料理をしない男性に教えるのは、なかなか大変そうですよね。

福本 そうですね(微笑)
はじめてお料理をされる方もいますから、そういう方も挫折せず、楽しい経験になるように、想定される失敗のリカバリー法は、全て事前に考えておきます。あと、男性は、外で美味しいものを食べる機会も多く、作るからには外食に引けを取らない、豪華なものが作れないと、満足してくれない(微笑)
しかも、一人暮らしの男性もいますから、初心者でもできる簡単な工程にした上で、フライパンひとつでできるようにするなど、レシピは男性向けにアレンジしています。
あとは、説明する時の表現方法かな。調味料の調合を理科の実験、順序立てて作る過程をプラモデル作り、さらに、魚さばきを解剖学に例えたり…(笑)。男性脳に響くような、理論的で、エンタテインメント性の高い表現を使うようにしています。

とにかく、忙しい男性の、貴重な週末の時間をいただく訳ですから!
単に料理を覚えるだけではなく、短い時間にたくさんのメリットがないと、申し訳なくって…(笑)

例えば、せっかく20代から70代まで、幅広い年代の、異業種の男性たちが集まる訳ですから、異業種交流会と言うか、貴重な出会いの場とも、考えられますよね。だから、調理過程では、参加者同士の自然なコミュニケーションが生まれるようなしかけも、意識しています。
その結果、メンキチ(メンズ・キッチンの略)で出会った男性同士、呑みに行ったりもするようで、最近は、男の料理部と言うか、サークルのような雰囲気になってきましたね(微笑)

―― この頃は、男女混合の教室や、築地の見学ツアーなどもされていますよね。それも、料理の楽しさを伝えるために、始めたことなんですか?

福本 それは、むしろ自然発生的に…。
2年くらい前に、女性たちから「自分たちも参加したい」という声があって。築地の見学ツアーは、毎年秋に、魚のさばき方を教えていたら、自然に魚に興味を持って下さったので…。それなら、ご家族や彼女など、メンキチを囲むみんなで楽しめる、社会科見学をしましょうと実現したものです。

男女混合の教室に来るのは、カップルや、ご夫婦ばかりではないんですよ。
お父さんと中学生の娘さんと言う、組み合わせもありました。仲の良い親子だとお見受けしていたら、終わった後、お父さんがメンキチに通うようになってから、会話が増えて、親子関係が変わりましたと言っていただけて…。まさにこれがしたかった!と思いましたね。

第二の人生とか、第二の自分などと言うと、大げさだけど…。
男性が料理を始めることで、周りの人も含めて、暮らしがより豊かで、楽しい方に変わっていくような気がするんです。家族との会話が増えたり、料理仲間ができたり、魚への興味が発展して、市場に行くのもそうだし、器への興味から、陶芸を始めた生徒さんもいます。

実は、メンキチのコンセプトは“男子料理はみんなを笑顔にする”なのですが、料理には本当に、そのくらいの力があると、私も改めて、感じているんです。

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―― 最後に。
THE FORUMで、陽子さんがやってみたいイベントはありますか?

福本 お庭を見ていると…。
よもぎを収穫して、男性だけでなく子供たちも一緒に、よもぎ餅をつくる会を、やってみたいですね。時間にもよりますが、小豆を煮て、餡を作ったり、外でお餅をついたりして。

昔ね…。
お醤油の在りかもわからないほど、料理をしなかった父が、母が不在の時、一度だけ作ってくれたお料理があったんです。「ほら、“黒ごはん”だよ」って…(微笑)
私にとっては、父がキッチンに立っただけでも新鮮で、味も、今でも忘れられないくらい美味しくて、「お父さん、天才かも?!」って思っていたんだけど…。前日のすき焼きの残り汁に、ご飯を入れただけのものだったんですよね(笑)

でも、そのたった1回が、鮮明に記憶に残っている。つまり、お父さんが料理をつくること事態が、家族にはスペシャルなことなんです。
だから、男性の料理は、本当は、ヘタッピでもいいと思っているんです(微笑)

男子専門料理教室 メンズ・キッチン http://mens-kstyle.com/
男子専門料理教室 メンキチのすすめ http://ameblo.jp/mens-kstyle/

2013.01.21 Mon by 弦巻 響子 from interview

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