THE FORUM 世田谷

大切なものは目に見えない 【連載第2回】

~ あなたのカラダ「発酵」してる? ~

 

小さい頃から我が家の朝食メニューはこれと決まっている。

炊きたての白いごはんと、季節のお野菜たっぷり具沢山のお味噌汁、納豆にお漬物。これに、ちょっとした常備菜や焼き魚、卵焼きといったバリエーションが加えられる。

穏やかな朝も、急いでいる朝も、どんなに落ち込んでいる朝も。
晴れの日も、雨の日も、風の日も。
飽きずに毎朝食べ続けてきた朝食メニューだ。

祖母が生きていた頃は、遠く広島の山奥から送られてくる祖母の手前味噌が我が家の定番だった。そして、今は私の手前味噌で仕立てたお味噌汁が我が家の食卓に並ぶ。

何の変哲もない定番中の定番な和朝食だが、これ以上の朝食があるだろうかと思うくらい気に入っているし、毎日食べても飽きずに美味しく感じるから不思議だ。きっと死ぬまでこういった和朝食を食べ続けるのだと思う。

 

08_容~2
 「醗酵♥茶会(http://www.hakko-chakai.com/)」で仕込まれた“手前味噌”

発酵微生物の勉強をしていると、このスタンダードな和朝食が私達のカラダ。
生物化学的にも非常に理にかなっているゴールデン・メニューだということを知ることができる。私たちのカラダを「発酵」するのにぴったりのメニューなのだ。

ここで、「発酵」という現象について考えてみたい。「発酵」とはどういう状態を言うのだろうか?  「腐敗」と何が違うのか?  「発酵」と「腐敗」の違いをはっきりと答えられる人はいるだろうか。

なんとなく微生物が関与している感じ…。そして、「発酵=良さそう」、「腐敗=悪そう」というイメージを持つ人が多いのではないだろうか。

そう、まさにその通りなのである。

広義的に解説すると、「発酵」とは、微生物が物質に作用し、人間に対して有益なもの状態をつくることを言う。逆に人間に対して有害なことを「腐敗」と言う。

当の本人…微生物達は与えられた場所で粛々と生命活動をしているだけなのである。それなのに、人間が勝手に「発酵」だとか「腐敗」だとかレッテルを張っているだけの話。微生物からしたら、大変迷惑な話だろうと思う。

そして、この「発酵」「腐敗」という言葉は非常にファジーな言葉でもある。
多くの日本人が大好きな納豆も、外国人に食べてもらおうと蓋を開けた瞬間「こんな腐ったもん食べられない!」ということになる。人体に有益であってもエモーショナルな要素によって左右される言葉なのだ。

そして、この「発酵」「腐敗」という現象は私達のカラダの中でも起こっている。

前回、私たちの腸には約100兆個もの微生物が生息していることをご紹介したが、腸内では日々「発酵菌」と「腐敗菌」がしのぎを削って陣取り合戦をしている。

腸内で「発酵菌」が優勢になると、病気の原因となるような腐敗菌の定着・増殖を許さずに腸内環境を整えてくれる。すると、腸壁で栄養をしっかり吸収しやすくなり、栄養が体の隅々まで行き渡りやすくなる。結果、カラダ全体のアンチエイジングにつながるというわけだ。

逆に「腐敗菌」が優勢になると、腐敗菌は発がん性物質や毒素、アンモニアを産生し、吹き出物が出やすくなったり、免疫力も低下しがちに。アレルギーを引き起こしやすくなったり、カラダが不調になったり、オナラが臭くなったり…ということになる。

できれば「発酵」する腸を手に入れたいものである。どうすれば腸は「発酵」しやすくなるのだろうか?  生活習慣を整えることは大前提なのだが、食事に「菌」をとりいれること。いわゆる“菌食”を習慣にすると、腸内は「発酵」しやすくなる。

ここで、スタンダードな和朝食の登場だ。

・ごはん:炭水化物。微生物の栄養源。
・お味噌汁:“腸内発酵菌のエース”乳酸菌の大好物、オリゴ糖源
・納豆:乳酸菌と仲良しの納豆菌源
・漬物:植物性の乳酸菌がいっぱい!
ぬか漬けには“腸内の癒し菌”と呼ばれる酪酸菌も豊富

和朝食は“発酵するカラダづくり”にいいこと尽くめというわけだ。

 

紹介本02画像

そして声を大にして言いたいのは、しっかりと長期発酵・熟成したお味噌。これがすごくいいということ。ここで、広島大学名誉教授 理学博士・医学博士の渡邊敦光先生が書かれた『味噌力(かんき出版)』という本を紹介したい。

先生が二十数年間の実験・研究で解明してきた味噌の予防・治療的な効果を科学的根拠とともに紹介しており、お味噌が各種ガンや高血圧、脳卒中、糖尿病、肥満、便秘・・・だけでなく、放射線などからカラダを守る味噌の驚くべきチカラを惜しげも無く語ってくれている。

そして、特筆すべきは熟成度がすすむと、味噌のさまざまなチカラは増していくということ。

昔から、お味噌に関することわざは多く「味噌汁は医者殺し」「みそ汁一杯三里の力」「味噌汁は朝の毒消し」「味噌汁は不老長寿の薬」…などなどが知られているが、味噌の科学的な分析がされるずっと昔から、ご先祖様達は「どうやらお味噌はいいらしい」ということを認識していたようだ。

一汁一菜という食事形式がはじまった鎌倉時代から、私達日本人の食卓に欠かすことの出来ない存在となったお味噌汁。

茶色くて地味なヤツだが、どんな食材もおいしく包み込んでくれる懐の深い味噌汁。私はお味噌汁が大好きだ。

たまに、お味噌汁を戴きながらこんなことを思う。

私達人間は地球にとって「発酵」的な存在なのだろうか。「腐敗」的な存在なのだろうかと。

味噌樽の中を覗き込みながら、「よしよしいい具合に発酵・熟成している」とほくそ笑む私のように、地球をつくった主が地球を上から覗き込んでいる時に「よしよし発酵しているぞ」と思ってくれているのか「腐ってるな・・・」と思うのだろうか。

そして、今日も私は粛々と懸命に一日を生きている。味噌樽に生息する微生物達のように。

 

~ 内海裕子さんによるブックセレクション『大切なものは目に見えない』。次回最終回は6月20日(木)の掲載を予定しています。お楽しみに! ~

※『味噌力』(渡邊敦光著/かんき出版)は、THE FORUMのラウンジに購入予定です。

2013.06.13 Thu by 内海 裕子 from Books

TAG :

Page Top

Copyright © THE FORUM All rights reserved.