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フンとホン 【連載最終回】

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排泄は重要だ、ということを繰り返し繰り返し語って来ましたが、大事なことなのでもう一度。トイレの時間を大切にするためにいい本を紹介する第三回です。

前回は南の島の神話の本でしたが、今回紹介する『胎児の世界』という本も南島の話から始まります。著者がヤシの実のジュースを飲んだ時、「いったい、おれの祖先は….ポリネシアか」と思わずつぶやいたというエピソード。その味から喚起された「懐かしい」という感覚から、著者の三木成夫さんは、味覚の根源は乳の味であり、乳がすべての哺乳類の生命の源であると、論を進めていきます。そして「味」という感覚を担っている舌は、口から食道、胃、腸と続いていく流れの先端部分にある、と言うのです。

前回紹介した『南島の神話』には、食べることと排泄することがしっかりと繋がっていることを昔のヒトたちが認識していたことを示すたくさんの神話が掲載されていました。食べものは、上の穴たる口から入り、流れ流れて下の穴から別の形で出てくるということを、昔のヒトたちは重く捉え(面白がってもいたでしょうが)、神話において繰り返し語っています。

三木成夫さんも同じようにこの事実を重要視します。そして、ヒトのカラダはチューブになっていて、そのチューブの周りに様々な内蔵が配置されているのが人間の身体である、と捉え直します。植物から動物までのすべての生きものは、このチューブを軸にしながら、栄養摂取の「食」と次世代生産の「性」のサイクルを往復する、と言うのが三木さんの説です。昔の人たちの神話的な思考方法ととてもよく似ていますね。そして、トイレで読むにはぴったりの内容だと思いませんか。

晩年、三木さんは東京芸大で解剖の授業を担当していました。そして芸術家志望の学生たちに、毎年強烈な課題を出していたそうです(坂本龍一さんもこの授業を受けた、とどこかで仰ってました)。われわれにとっても大変興味深いその課題とは、

「朝、トイレで出した自分のモノを握ってみなさい」

というもの。これは、単なる冗談ではない、ということをご理解頂けるでしょうか。芸術を志すものならば、いや、人類に生まれたからにはと言ってもいいかもしれませんが、われわれのカラダを貫通している一本のチューブを通ってきた食べものの最終的な姿を、ただ水に流してしまうことは、生命としての大事な何かに触れずに済ませているのと同じ事だ、と三木さんは言いたかったのでしょう。そこには人類、そして生命のすべての歴史が詰まっているのです。

 

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さて、だいぶ大きな話しになってきたので、最後は軽い一冊を。『う』は、ウナギ食のイロイロを描いているマンガ。著者は庶民グルメマンガ界の名人、ラズウェル細木先生です。関西風と関東風のウナギの焼きの違いや、博多の鰻屋、さらにはスーパーで売っているパックのウナギをどうやったら美味しく食べることができるかなど、ためになるウナギ話が満載です。一話あたり5分くらいで読めるので、これもトイレ持ち込みに向いてますね。

『う』を読んでいると、先ほどの三木先生の課題に取り組む姿と、ウナギのつかみ取りをする姿が被るのは気のせいでしょうか…。ともあれ、ウナギのように毎日するっと出てきてくれることを祈りつつ、読書の時間をお楽しみください!

 

~ 早川アユムさんによるブックセレクション『フンとホン』は、今回が最終回です。早川さん、どうもありがとうございました! ~

※『胎児の世界―人類の生命記憶』(中公新書)、『う』(モーニング KC)は、THE FORUMのトイレにて実際にご覧いただけます。

2013.04.18 Thu by 早川 アユム from Books

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